出口正子

Masako Deguchi

国立音楽大学卒業。東京芸術大学大学院終了。第 10 回日伊コンコルソ第 1 位。
第 43 回日本音楽コンクール第 1 位。海外派遣コンクール特別表彰受賞。 イタリア(ミラノ)スカラ座研修所で研鑽を積み、約 30 年間在伊。多くの国際的オペラ歌手との共演、国際舞台での活躍の実績を持つ。第 15 回ジロー・オペラ賞大賞受賞。昭和 63 年度芸術選奨文部大臣新人賞受賞。 田島好一、A.ベルトラミ、E.ミュラー、N.スカットリーニの諸氏に師事。 正統的なベルカント唱法を会得している数少ない日本人ソプラノ歌手である。ベルカント・オペラのアリアと歌曲による CD アルバムをリリースしている。



【主な活動経歴】

1974年
東京オペラプロデュース「スペインの時」(作曲:ラベル)に出演後、渡伊。
1981年
テアトロ・ナツィオナーレ(ミラノ)にて、フラヴィアーノ・ラボー共演「ルチア」のルチア役でオペラ・デビュー
<狂乱の場>の至難のカデンツァを歌い終わった時には嵐のような喝采が鳴り止まず、公演が一時中断する、という「伝説」を生む。
「ファルスタッフ」のナンネッタ(アレッサンドリア)に出演。
1982年
「椿姫」のヴィオレッタ役にカーティア・リッチャレッリとダブルキャストで出演、大成功を収める。
その他、「清教徒」、「夢遊病の女」、「リゴレット」、「愛の妙薬」、「ドン・ジョヴァンニ」など、ベルカント・ オペラを中心としたレパートリーでイタリア、フランス各地の歌劇場で活躍を続け、欧州で活躍する日本国籍のプリマドンナとして、国際的な評価を得る。
1983 年
テアトロ・フィラルモニコ(ヴェローナ)にて、「椿姫」に出演。
1985 年
ドニゼッティの生地ベルガモのドニゼッティ・フェスティヴァル開幕公演で「ルチア」に出演。
1987年
一時帰国。藤原歌劇団「ルチア」のタイトルロールで日本オペラ・デビュー。
以後、藤原歌劇団のプリマドンナとして、「ルチア」、「椿姫」、「リゴレット」、「夢遊病の 女」、「清教徒」、「愛の妙薬」等多くのオペラに主演し、絶賛を博す。
2001年
新国立劇場「トゥーランドット」にリュー役で出演。
その後、「カルメン」(ミカエラ)、「アイーダ」 (巫女)、「オテッロ」(デズデーモナ)などで活躍し、その実力が高く評価される。
また、スペインのマラガにて「トゥーランドット」にリュー役で出演。ジョヴァンナ・カゾッラ、ランド・ バルトリーニと共演したこの公演は、レコーディングされた。
2004年〜2005年
ラ・ヴォーチェ主催オペラ「ルチア」(2004年)、「椿姫」(2005年)に出演。
2006年
びわ湖ホール・プロデュース・オペラ「海賊」に出演。
その後、東京室内歌劇場「井筒の女」、「アルチーナ」、「後宮からの逃走」、等に出演。
オペラ彩・プロデュースオペラ「ナブッコ」(2008 年)、「マリア・ストゥアルダ」(2012 年)、「マクベス」(2013 年)等で等でタイトルロールを演じ、N HKニューイヤー・オペラコンサートや別府アルゲリッチ音楽祭などの各種コンサートに出演。
また、社会貢献理念に基づくコンサート〈「出口正子(ソプラノ) 青柳明(テノール)ジョイントコンサート 母に贈る歌」〉を 自主企画で行う等、活動の幅を広げて活躍中である。
2008年〜2013年
オペラ彩・プロデュースオペラ「ナブッコ」(2008 年)、「マリア・ストゥアルダ」(2012 年)、「マクベス」(2013 年)、等でタイトルロールを演じ、 NHKニューイヤー・オペラコンサートや別府アルゲリッチ音楽祭などの各種コンサートに出演。
また、社会貢献理念に基づくコンサート〈「出口正子(ソプラノ) 青柳明(テノール)ジョイントコンサート 母に贈る歌」〉を自主企画で行う等、 活動の幅を広げて活躍中である。
2014年2月
「ハーモニアス別府 20 周年記念 第 20 回 ニューイヤーコンサート」、オペラ「椿姫」に出演予 定。至高のベルカントを目指して、声(歌唱)とその表現に、益々、磨きをかけている。




活動評



出口正子の凄さは、ヴェルディ《椿姫》やベルカント・オペラの《ルチア》《夢遊病の女》《清教徒》といったイタリア人ソプラノにとってすら至難な役柄で、またイタリア女性そのものとも言うべきコケティッシュな魅力を要求される《愛の妙薬》などにおいても、本場イタリアの聴衆から圧倒的な支持を得てきたことにある。
特に《椿姫》は、マリア・カラスの絶対的なヴィオレッタの出現以降、彼女の亡霊が付いているとでも言うべきか、聴衆から10分を超えるスタンディングオヴェーションを受けた歌手ともなれば、カラス以降、今日に至るまでほんの一握りしかいない。そして、出口正子はその一人なのである。
出口がイタリアで高い評価を得ていた1980年代、ヨーロッパで活躍する日本のオペラ歌手は現在よりも数多く存在した。だがイタリアにおいて、しかも日本国籍のままで、ベルカント・オペラのレパートリーで活躍していた女性歌手では、彼女は唯一の存在だったと評しても過言ではあるまい。
大学に入った当初はメゾソプラノだったという彼女の才能は、国立音楽大学、東京藝術大学大学院で学んでいたころからすでに高く評価され、日本の主だったコンクールを総なめにした。しかし彼女は、そんな評価に甘んじることなく、ミラノに留学、スカラ座のオペラ研修所で研鑚を積みながらその比類なき歌唱テクニックを身に付けていった。


イタリアにおいて、ソプラノやテノールといった高音を駆使する歌手にまず求められる資質は、輝かしい高音(アクート)の持ち主であることと、その安定感にある。だがベルカント・オペラ歌手となると、求められるものは一層厳しいものになる。上から下までムラなく美しく流れ、淀むことを知らぬ、高度なテクニックに裏付けられた歌唱ができること。これを身につけるのは、特に外国人の歌手にとっては至難の業である。いい発声でこそ明確なディクションで表現ができるように書かれているベルカント・オペラは、作品自体がそれを歌うことが許される歌手を選ぶ。出口は、そのハードルを易々とクリアした稀有なソプラノなのである。私の知る限り、日本人ソプラノでそれを正真正銘身につけているのは、彼女のほかに、林康子の名が唯一思い浮かぶのみである。
ヴェルディの《椿姫》ともなれば、それに加えオペラ歌手としてのすべての資質において卓越したレヴェルが要求される。出口は日本人としても小柄な体格であるにもかかわらず、リリコ・レッジェーロにありがちな中音部で声が痩せてしまう欠点もなく、もちろん繊細な感情表現、演技力も兼ね備えて、この役を当たり役とした。彼女がヴィオレッタとしてイタリアのオペラハウスの舞台で圧倒的な存在感を示したことは、当時の複数のイタリアの新聞記事が示している通りである。


東京の下町で生まれ育った出口の中には、気風のいい江戸っ子と今にも折れてしまいそうな繊細な神経という相入れないふたつの気質が同居している。音楽に対する真摯で、いかなる時も、より高みを目指し続ける姿勢はその後者が如実に現れたものだろうし、カーティア・リッチャレッリとのダブルキャストで、それも公演寸前に急遽オファーされた(それも初役だった)《椿姫》への出演を承諾しチャレンジした、胸のすくような度胸の良さは、彼女のチャキチャキの江戸っ子気質がもたらしたのではないかと思う。
イタリアをはじめ、フランス、オランダ、アメリカ各地で活躍し、藤原オペラのプリマドンナとして、あるいは新国立劇場で数々のヒロインを務めてきた出口正子は現在、そのレパートリーをヴェリズモ・オペラにまで広げつつある。彼女はこれからどこまでその翼を広げて翔んでいくのか、一ファンとして、私は彼女のこれからもまた 楽しみでならない。
オペラ、コンサートの本番当日に至るまでの出口の準備ぶりには、これだけのキャリアを誇るヴェテランがなにもそこまで……といつも感心させられる。一フレーズ、一つの言葉すらおろそかにすることを彼女は自分に許さない。その姿勢を今の若い歌手たちこそ是非見習って欲しいと思う。これほどの高みを極めた歌手ですら、いや、超一流の歌手だからこそ、「音楽」という芸術の素晴らしさに、敬虔とも呼ぶべき姿勢を貫き通しているのだということを。


音楽評論家 河野典子

レパートリー

オラトリオ

G.Carissimi(カリッシミ)
Jephthah(イェフタ)
A.Vivaldi(ヴィヴァルディ)
Laudate Pueri(主の僕たちよ、主をたたえよ)
G.Rossini(ロッシーニ)
Missa solemnis( 小荘厳ミサ
G.Verdi(ヴェルディ)
Requiem (レクイエム
佐藤 宏      
レクイエム

オペラ

V.Bellini(ベッリーニ)
“La sonnambula”(夢遊病の女 )  ,  Amina(アミーナ)
“I Puritani”(清教徒)  , Elvira(エルヴィーラ)
G.Donizetti(ドニゼッティ)
“Lucia di Lammermoor”(ルチア)  , Lucia(ルチア)
“L'elisir d'amore”(愛の妙薬) ,  Adina(アディーナ)
“Maria Stuarda”(マリア・ストゥアルダ) ,  Maria(マリア)
G.Hendel(ヘンデル)
“Alcina”(アルチーナ)  ,  Alcina(アルチーナ)
W.A.Mozart(モーツァルト)
“Don Giovanni”(ドン・ジョヴァンニ)  ,  Donna Anna(ドンナアンナ)
“Idomeneo”(イドメネオ)  ,  llea(イリア)
“Die Entf?hrung aus dem Serail”(後宮からの逃走)  ,  Constanza(コンスタンツェ)
F.Cilea(チレア)
“Adriana Lecouvreur”(アドリアーナ・ルクヴルール)  ,  Adriana(アドリアーナ)
G.Verdi(ヴェルディ)
“Nabucco”(ナブッコ)  ,  Abigaille(アビガイッレ)
“Rigoletto”(イゴレット)  ,  Gilda(ジルダ)
“Il Corsaro”(海賊)  ,  Gulnara(グルナーラ)
“La Traviata”(椿姫)  ,  Violetta(ヴィオレッタ)
“Otello”(オテロ)  , Desdemona(デズデモナ)
“Falstaff”(ファルスタッフ)  ,  Nannetta(ナンネッタ)
“Macbeth”(マクベス)  ,  Lady Macbeth(マクベス夫人)
G.Puccini(プッチーニ)
“Gianni Schicchi”(ジャンニ・スキッキ)  , Lauretta(ラウレッタ)
“La Boheme”(ボエーム) ,  Mimi (ミミ)
“Madama Butterfly”(蝶々夫人) ,  Madama Butterfly(蝶々夫人)
“Turandot”(トゥーランドット) ,  Liu(リュー)
G.Bizet(ビゼー)
“Carmen”(カルメン)  ,  Michaela(ミカエラ)
F.Poulenc(プーランク)
“Les Dialogues des Carmelites”(カルメル会修道女の対話)  ,  Blanche(ブランシュ)
別宮貞雄
「井筒の女」  ,  紀則子

歌曲

Villa Lobos(ヴィラ・ロボス)
“Bachianas Brasileiras (ブラジル風バッハ第五番)
石川真昭[IRISM]
「花華」~春~